大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

大阪高等裁判所 平成6年(ネ)3274号 判決 1995年9月21日

主文

一  原判決中、控訴人に関する部分を取り消す。

二  右部分に関する被控訴人らの請求を棄却する。

三  訴訟費用中、控訴人と被控訴人らとの間に生じたものは一、二審とも被控訴人らの負担とする。

事実及び理由

一  控訴の趣旨

主文同旨

二  事案の概要

原判決の「第二 事案の概要」欄記載中の控訴人関係部分のとおりであるから、これを引用する。ただし、六枚目表六行目の「登録番号」の次に「(ただし、原告番号<21>の会員番号『一〇七二』を『一〇七一』に改める。)」を加える。

三  争点に対する判断

1  争点2のうち、事情変更の原則について

(一)  防災処置及び改良工事の必要性

(1) 原判決の「第三 争点に対する判断」欄二の1(一)の(1)の説示(一二枚目表七行目冒頭から同裏一行目末尾まで)と同一であるから、これを引用する。

(2) 乙二の一ないし八、証人小川の証言及び弁論の全趣旨を総合すると、平成二年五月に、本件ゴルフ場のうち、既に閉鎖されていた中コースの一部と、未だ営業中であった東コースの一部に法面崩壊が生じたこと(以下『平成二年五月の法面崩壊』という。)、そして、その結果、全コースの閉鎖に至ったことが認められる。

ただ、右(1)で引用した原判決認定事実に乙三、一三、証人小川の証言及び弁論の全趣旨を総合すると、平成二年五月の法面崩壊のみが本件ゴルフ場のゴルフコースとしての営業を不可能にしたものとはいえないが、それ以前に生じていた法面崩壊状況とが相まってその営業を不可能にしたものと認められる。

なお、乙二の一ないし八、証人小川の証言及び弁論の全趣旨を総合すると、平成二年五月の法面崩壊の大半は同月六日に一応修復されていた事実が認められ、控訴人佐藤本人尋問の結果によると、実際に、東コースの崩壊も直ちに一応補修され、右全面閉鎖されるまでは営業されていた事実が認められるが、乙三二、証人小林の証言及び弁論の全趣旨によれば、右一応の修復、補修は、法面崩壊の原因を十分に把握しないままの応急措置であったものと認めるのが相当であるから、右各事実は、それまでの法面崩壊と平成二年五月の法面崩壊とが相まって、本件ゴルフ場のゴルフコースとしての営業を不可能にしたとの右認定を妨げるものではない。

また、乙二一の一ないし三及び証人小川の証言によれば、原審相被告モーリーインターナショナルは、遅くとも、本件改良工事の開発許可申請を行った平成二年一月末ころには、既存の二七ホールを一八ホールにするという本件改良工事の実施を決定していたことを認めることができる。したがって、平成二年五月の法面崩壊のみが本件改良工事の原因とはいえないが、右に認定したように、それまでに生じていた法面崩壊と平成二年五月の法面崩壊とが相まって本件ゴルフ場のゴルフコースとしての営業を不可能にしたと認められるのであるから、本件改良工事の右実施決定があるからといって、平成二年五月の法面崩壊が本件改良工事と無関係であったとすることにはならない。

(3) 乙二二によれば、本件ゴルフ場は、谷筋を埋めた盛土に施工不良があり、また、盛土の基礎地盤と切土地盤に存在する強風化花崗岩のせん断強度が小さいことから、地下水、特に被圧地下水の湧出などにより法面崩壊が生じやすくなっていたことが認められるところ、乙一三、二三、三一によれば、本件改良工事は、右のような崩壊の原因を除去するために有効な工事であったと認められる。

なお、証人小林の証言及び弁論の全趣旨によれば、本件改良工事の内容は、<1>降雨時に上昇した地山の地下水が、盛土内に侵入しても、これを速やかに排除できる岩砕盛土、地下排水菅、地表面排水等の構造とすること<2>すべり(せん断)破壊に強い材料を盛土材料として使用し、全体構造としてすべりに強い盛土体とすること。せん断抵抗力の大きい岩砕盛土(盛土規模に応じ複数箇所に)を土砂盛土内に設けること<3>旧盛土箇所の崩壊土砂及び軟弱土の排土と岩砕盛土、地下排水菅、地表面排水工、排水井等による修復工事を実施することの三点にあり、特に西南部法面の数量だけ取っても次のような数値であったことが認められる。

(ア) 西南法面     一〇万三四〇〇平方メートル

(イ) 排土量      二〇万二二〇〇立方メートル

(ウ) 盛土転圧

岩砕盛土Ⅰ   一一万九七〇〇立方メートル

岩砕盛土Ⅱ    六万七八〇〇立方メートル

軟岩盛土Ⅰ    九万九三〇〇立方メートル

軟岩盛土Ⅱ   一四万三七〇〇立方メートル

土砂盛土     四万六三〇〇立方メートル

また、乙四ないし一〇〔枝番のあるものは枝番を含む。〕、証人三鈷の証言及び弁論の全趣旨を総合すると、本件改良工事にかかった費用は、クラブハウスの建築を含め、約一三〇億円(ちなみに、乙一、二八の一・二、証人三鈷の証言及び弁論の全趣旨によれば、本件第一承継の際現実に支払われた金額は二八億円であり、控訴人が平成四年三月二日原審相被告モーリーインターナショナルから権利義務を承継した際現実に支払われた金額は約五〇億円であると認められる。)であると認められる。

乙一八、一九、二四、証人小川及び同三鈷によれば、原審相被告モーリーインターナショナルは、本件第一承継直後の昭和六三年初めころ、東急建設株式会社に図面の作成を依頼し、近隣地権者との交渉を行うなど、近隣土地を買収し、本件ゴルフ場を三六ホールに拡張しようとの意向を有していたと認められるが、乙三二、証人小林の証言及び弁論の全趣旨を総合すると、右三六ホール拡張の話は、関係地権者が多くて中断したことが認められるのであり、本件改良工事は右拡張の話とは別のものと認められるので、原審相被告モーリーインターナショナルが右三六ホール拡張の意向を有していたことをもって、本件改良工事につき、それが法面崩壊に対する防災という目的だけでなく、コース改造という営業政策上の目的をも兼ねていたと認定することはできない。

以上認定の事実及び弁論の全趣旨を総合すると、本件改良工事とこれに要する右費用が、本件ゴルフ場の法面崩壊に対する防災という観点からみて、必要最小限度のやむをえない工事及び費用であると認めるのが相当である。

(二)  予見可能性

甲一、二、乙二二、二八の一、三二、証人小川、同三鈷、同小林の各証言及び弁論の全趣旨を総合すると、本件第一承継当時、原審相被告モーリーインターナショナルにおいて、法面崩壊に対する防災処置を施す必要が生じることを予見していなかったとはいえないが、本件改良工事のような大規模な防災処置を施す必要が生じることまでは予見しておらず、かつ予見しえなかったものと認めるのが相当である。

なお、証人小川及び同三鈷の各証言によれば、本件第一承継当時、原審相被告モーリーインターナショナルは金融業を目的とするアイチグループに属していたものであるところ、同グループに属する会社が経営するゴルフ場は、国内、国外にそれぞれ何か所もあったことが認められるのであり、既設のゴルフ場の買収経験も豊富であったものと推認されるのであるから、本件第一承継に際して、本件ゴルフ場の現況について詳細な調査がされていると考える余地がないとはいえないが、右は単なる推測の域に止まるものであり(全証拠によっても、右詳細な調査がされている事実を認めるに足りない。)、他に予見可能性に関する前記認定を覆すに足りる証拠はない。

2  以上認定の事実に加え、被控訴人らにおいて、前記のように多額の費用を要した本件改良工事後の本件ゴルフ場を使用するために、既に負担している金額以外の経済的負担を負うことを拒否していること(弁論の全趣旨)を併せ考えれば、被控訴人らに対し、本件ゴルフ場の会員資格中の『施設の優先的優待的利用権』を、当初の契約で取得した権利の内容であるとして認めることは、信義衡平上著しく不当と認めるのが相当である(いわゆる事情変更の原則が適用される。)。

被控訴人らは、本件改良工事に関して、控訴人が大日本ゴルフ観光に対し、錯誤、瑕疵担保責任、不完全履行等を原因として法的責任を追及すべきものであり、被控訴人らにその負担を要求することは相当でない旨主張する。

しかし、乙一六、証人三鈷の証言及び弁論の全趣旨を総合すると、<1>大日本ゴルフ観光は、昭和六三年一一月の時点において、商業登記簿上は存在しているが、調査機関によっても、その現実の営業種目及び営業実態の確認がとれない上、その当座取引銀行はあるが、その銀行との間に融資関係はないので、その銀行は大日本ゴルフ観光の経営内容について全く把握していないこと<2>控訴人において、大日本ゴルフ観光に対する法的責任の追及を考慮したこともあったが、大日本ゴルフ観光がいわゆるペーパーカンパニーになってしまっているとの判断のもとに、それを断念したこと<3>平成六年三月一八日原審で行われた証人三鈷に対する被控訴人ら代理人の尋問も、昭和六三年一一月の時点で大日本ゴルフ観光に資産がないことを前提にしていると思われることが認められる。

以上の認定事実によれば、大日本ゴルフ観光は昭和六三年一一月の時点でいわゆるペーパーカンパニーになってしまっており、その資産状態も全く明らかではない状態になっていたものと認めるのが相当であり、その後現在までの間に右状態に変化があったとする主張、立証はない。

そうすると、仮に、控訴人において、本件改良工事に関して大日本ゴルフ観光に対し法的責任を追及することが可能であるとしても、現実に財産的給付を得ることは不可能であると認めるのが相当であって、本件改良工事に関して被控訴人らに負担を要求することは相当でないとする被控訴人らの右主張は理由がない。

その他、本件において、前記いわゆる事情の変更の原則の適用を不当とする事情は認められない。

以上によれば、その余の判断をするまでもなく被控訴人らの本件請求は理由がない。

よって、被控訴人らの本件請求を認容した原判決は相当でないから、これを取り消して、被控訴人らの請求を棄却することとする。

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例